不定期連載 bikke's essay 第1回

ニョマン

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ラブジョイの歌に出て来る「ニョマン」は人の名前である。
バリ人の名前である。

私は以前、バリにひと月だけ住んでいた。
そこで、仲良しになったのが、ホテルのメイドの女の子、
16才のニョマンだった。

くるくる動く大きな黒い瞳と、元気な笑顔の可愛いニョマンは、
掃除をしたり、洗濯したり、食事を運んでくれたり、作ったり、
私よりもまだ背がちいさくても、ホントによく働いていた。

バリダンスを習ってる同室の友達が出かけた後は、
市場へ買い物に行くニョマンについて行ったり、
通りを見下ろす階段に座って話したり、
流れる川を見ながら歌をうたったり、
仕事の合間を見て、ニョマンはヒマな私と遊んでくれた。

ある日、日本から後発の友達がやって来た。
彼女もニョマンとすぐに仲良くなり、
晴れた日、私達は一緒に市場へ出かけた。
市場は人でごった返し、3人、手をしっかり繋いで歩いた。

道ばたの店で「私はおしんの故郷から来た」などと言う友達に、
当時バリ人の涙をしぼっていた「おしん」だったため、
周囲は大いに盛り上がってしまった。

「おしん割り引きして~」「ユー、オスイ~ン」「おしんマイフレンド」「オオ」
バカなことを言ってるうちに、私達はニョマンとはぐれてしまった。

どうしようかと思う間もなく、友は「呼べばいいじゃん」と叫んだのである。
「ニョマ~ン!!」

その途端、市場中の人が振り返った。忘れていた。
多くのバリの人の名前は、「ワヤン」「マデ」「ニョマン」「クトゥッ」の
4つのどれかである。ああ、市場中の老若男女のニョマンが振り向いちゃったよー。

「ニョマンだらけだ~」と言う友の手首を握り、ダッシュした。
店、人、人、店の間を抜け、ひと息ついた空き場所の向こうで、
私達は私達のニョマンを見つけた。ニョマンはお菓子のお店の前を歩いてた。
気が付いて、目を丸くして走って来て、おお息をついた。

「ニョマン~」と大騒ぎの二人に、ニョマンはお菓子を買ってくれた。
きれいな色の、手のひらにのるお菓子だった。
ニョマンの手のひらに真鍮色のコインが残ってた。

ニョマンは汗を拭いながら、ニコっと笑った。
「もう~。心配したよー」と肘鉄をくわされた。

甘い、ココナッツの香りのするお菓子だった。
ニョマンのほぼ倍の年令の私達であった。

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